ギャラリー数寄 25周年企画「大地の恵み II」
ギャラリー数寄は開廊から25周年を迎え、やきものを中心とした展覧会を数多く開催してきた。東海地区のみならず若手からベテランまで幅広い作家たちを紹介し続けている。
現代においてやきもの、土を素材とする造形表現は多種多様である。戦後の「オブジェ焼き」の出現から半世紀以上たつが、やきものの姿は変化し続けている。自らを取り巻く環境や社会との関わりが個々の思想を構築し、それらが造形と結びつくことで表現となる。近年は陶作品をつくるにとどまらずそれを用いてパフォーマンスをする作家、土による造形過程の中で発生する現象を分解し再構築する作家たちも現れている。
25周年記念となるこの展覧会は2019年の「大地からの恵み」第二弾として企画され、伊藤慶二、三原研、五味謙二、阿曽藍人、松永圭太の5人が出品する。
大地が育んだ土、人が発見した火が出会い、やきものが生まれた。太古より続くこの行為と純粋に向き合う作家たちの表現を楽しみたい。
伊藤慶二は人の顔に心情を、手や足、仏に祈りをかたちとして起こしていく。伊藤の手によって土が人となった《面》シリーズは開かれたその目で世界を眺め楽しんでいるようである。反戦への強いメッセージを焼き締めた土、微笑む顔、世界を測るための尺度など、どれをとっても「人間のこと」なのだ。気持ちよく、真っ直ぐに生きるー伊藤の作品はユーモアを含みながら、日々を大切に過ごすための道を指し示してくれる。
三原研は出身地である島根県出雲市にアトリエを構え、制作を続けている。洗練されたフォルムは月や雲、風など自然をイメージさせる。焼成を繰り返し土肌に黄や橙、白などの色を与え、山々の地肌、肥沃な田畑を彷彿とさせる風景を描き出していく。自身の中に蓄積したきらめきを土に組み込み、出現させる。これらはまるで神具のようであり、神々の意志を地上におろしたかのような神器でもある。出雲の地に根を張り、心を耕す人々が神に捧げる祈りそのものではないだろうか。
五味謙二は柔らかな土を少しずつ積み上げながらボディを作る。柔らかく膨らんだ形が入り組み、寄り添い、顔や体、足となって一つの生命体として立ち上がる。化粧土が施された肌合いは繊細な色の移ろいを持つ太古の衣装を身に纒うかのようだ。チャーミングでありながら、中にはいかめしい風貌をもつ存在。その佇まいは人に優しく寄り添う大地の精霊のようでもある。
阿曽藍人は野焼きによるドローイングとも言える表現を試みている。土によるキャンバスを作るため薄く平面状に、またはごくシンプルな球体を成型し、藁や籾殻など自然物で焼成する。炎で焼かれることにより赤や茶など土色を呈し、黒煙を吸い込み重層的な黒の世界へと変貌していく。原始に生み出されたやきものかたちは阿曽の新たな解釈によりタブローへと確立されていくだろう。
松永圭太は原土を水で攪拌し、比重により分離した泥を型へゆっくりと段階的に流し込むことで層による成型を行う。土を錬りあげ粘土でかたち作るが、泥漿を流し込むという磁土の成型技法を応用している。松永は土との関わり方を根本から見つめ直し、従来の成形方法を分解し、再構築させている。
過ごしてきた環境、社会との関わり、時代や世代によって土への向き合い方は変化し続けている。とはいえ、土であること、火でやくこと、この行為は決して変わることはない。陶芸家として世界と接続し、土と手を組み作品を生み出し続ける作家たち。我々、鑑賞者もまた作家が表す世界をみるために心を養い続けなければならないのではないだろうか。五感を研ぎ澄まし、時には第六感を開眼させ世界を大いに味わいたい。
ギャラリー数寄のオーナー佐橋氏は根っからのやきもの好きだと確信している。きっと今日も明日も、あちらへこちらへと作家、作品との新たな出会いを求め自らの足で歩いているだろう。ギャラリー数寄に集う人々もまたスキモノ揃いであろう。大地から、作家からの恵みに感謝して、ここに集いたくさんの人と語り合いたい。
齋藤智愛(岐阜県美術館学芸員)